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008 企業におけるパワーハラスメントへの対応

1.「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」からの提言
 平成24年3月15日,厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」は,「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」(以下,「会議提言」といいます。)を公表しました。この提言は,平成24年1月30日に公表された同会議のワーキング・グループの報告(以下,「WG報告」といいます。)結果を踏まえ,問題の予防・解決に向けとりまとめたものです。  
 なお,厚生労働省は,平成23年12月に,「心理的負荷による精神障害の労災認定」を新たに定めています。そして,業務による心理的負荷評価表が公表され,そのなかの具体的出来事の類型として,「退職を強要された」,「嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けた」,「上司とのトラブルがあった」等の職場で行われる「いじめ・嫌がらせ」,「パワーハラスメント」による精神障害を発病した労働者の労災認定について新たな基準も明らかにしています。

2.ワーキング・グループの報告
 WG報告では, まずなぜ職場のいじめ・嫌がらせ問題に取り組むべきかという問題の現状認識が示されています。例として,都道府県労働局によせられる「いじめ。嫌がらせ」に関する相談が平成14年度には約6,600件であったのが,平成22年度には約39,400件にもなっていることが示されています。
 そして,職場で行われる「いじめ・嫌がらせ」,「パワーハラスメント」を「職場のパワーハラスメント」という定義を使い,「職場におけるパワーハラスメント」の行為類型として6類型も示し整理した上で,予防・解決するために労使で取り組むべき具体的内容を報告しています。

3.会議提言の内容
 会議提言では,「いじめ・嫌がらせ」,「パワーハラスメント」という言葉は,一般的には,そうした行為を受けた人の主観的な判断を含んで用いられることに加え,どのような関係の下で行われる,どのような行為が問題行為に該当するのか人によって判断が異なる現状があること,特に職場での業務上の指導との線引きが難しいことを挙げ,問題を自覚し,認識を共有するために,労使が予防・解決に取り組むべき行為を,WG報告にある「職場におけるパワーハラスメント」と呼ぶことを提案してします。
  「職場のパワーハラスメント」とは,「同じ職場で働く者に対して,職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に,業務の適正な範囲を超えて,精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう」と定義しています。
  会議提言では,「職場のパワーハラスメント」の行為類型として具体的に以下の6類型を挙げています。これはパワーハラスメントを明確に定義する法律の条文がないために,認識を共有するための試みといえます。なお,行為類型は,「職場のパワーハラスメント」すべてを網羅したものではないとのだだし書きがあります。行為類型にあてはまらないからといって,「職場のパワーハラスメント」にはならないというわけではないことに注意しなければなりません。
    ①身体的な攻撃(暴行・傷害)
    ②精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
    ③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
    ④過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制,仕事の妨害)
    ⑤過小な要求(業務上の合理性なく,能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
    ⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
 そして,問題の予防・解決として,まずは企業として「職場のパワーハラスメントはなくすべきものである」という方針を明確に打ち出すべきであるとしています。

4.企業における対応
 「いじめ・嫌がらせ」,「パワーハラスメント」を行った人は,自分の行った行為の問題を認識していないことが多いと思われます。会議提言にも,人は時として他者の痛みについて鈍感であるが,自分が,自分の家族が「いじめ・嫌がらせ」,「パワーハラスメント」を受けたらどう感じるかを想像することで問題の重要性が理解できるのではないということが書かれています。
 「職場のパワーハラスメント」では,労働者のメンタルヘルスの不調という問題も同時に発生することが考えられ,個別事案ごとの慎重な対応が必要となります。企業によっては,単に一労働者の問題にはとどまらず,職場の雰囲気の悪化,生産性の低下,放置すれば使用者としての責任も問われる可能性もあります。パワーハラスメントを行った従業員が不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)を問われるだけでなく,対策を十分取らずに放置したとなれば,企業は使用者責任(民法715条)を問われることになります。また,企業は,雇用契約上の安全配慮義務・職場環境配慮義務の不履行(民法415条)を問われることもあります。
 企業としてのまず第一歩は,会社としてパワーハラスメントをなくすことを強く宣言することからはじめ,社内での相談窓口を設置することや,社員へ啓蒙活動を行うことが考えられます。もっとも,パワーハラスメントを恐れるあまり部下を叱れない上司になってしまっても業務上支障がありますので,上司だけでなく,新入社員への教育の一環として他者,特に上司への理解を深めることができるようなカリキュラムを入れるのもよいでしょう。会社の姿勢を示すという意味でも,就業規則内に具体的に禁止行為を規定し,懲戒事由の一つとすることが考えられるでしょう。

5.最後に
 今,社内に「いじめ・嫌がらせ」,「パワーハラスメント」は存在しないでしょうか。 NHKスペシャルで「職場を襲う新型うつ病」という放送がありました。一人前に育てようと指導していた新人が突然うつ病になってしまった話がドラマ仕立てで放送され,自分のときはもっと厳しく指導されていた,これくらいで病気になるなんて,本当に病気なのかと戸惑う上司が描かれていました。問題の背景には,職場内のコミュニケーションの低下,上司と部下との価値観の相違,成果主義による社員への圧力の高まりなどの多様な要因が指摘されているところですが,労働者一人一人の多様性を受け入れる土壌がなければ,社内に「いじめ・嫌がらせ」,「パワーハラスメント」は気付いていなくても存在している可能性があることを認識する必要があるように思われます。

※厚生労働省「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言取りまとめ」       http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r985200000255no.html

(弁護士藤谷護人)